2024.04.16

【パピーウォーカー】「盲導犬」“幼少期”の育成ボランティア…その10か月に及ぶ活動に密着(静岡)

ニュース 視覚障害者のパートナーとなって生活を支える盲導犬。その活躍の裏には、盲導犬の幼少期を育てる”パピーウォーカー”というボランティアの存在があります。その10か月に及ぶ活動を追いました。

視覚障害者のパートナーとなって生活を支える盲導犬。その活躍の裏には、盲導犬の幼少期を育てる”パピーウォーカー”というボランティアの存在があります。その10か月に及ぶ活動を追いました。

(児玉 美智子さん)
「ティファニー。ゲンちゃんが来てって言ってるよ。ティファニー、おいで」

掛川市の児玉さん夫婦と暮らすラブラドールレトリーバーのメスの“ティファニー”生後6か月の子犬です。この家にやって来てまだ4か月ですが、ティファニーのここでの生活にはタイムリミットがあります。

(児玉 美智子さん)
「あと半年ですよね」

ティファニーはただのペットではなく、これから盲導犬になる訓練を始める“候補犬”なのです!その厳しい訓練に入るまでの間、児玉さんの家でたっぷりの愛情に触れ人間とのコミュニケーションを学びます。児玉さんはそれをボランティアで行うその名も“パピーウォーカー”

(児玉 美智子さん)
「この子は元気です。ものおじしないし」

家では、11歳のウィッシュも一緒に暮らしています。

(児玉 美智子さん)
「ワンツーワンツー(トイレの合図)」

パピーとは子犬のこと。まずは基本となる食事やトイレのルールを覚えさせたり外の環境に慣れさせたりしながら将来、立派な盲導犬になれるようにたくさんの愛を注いで人間との信頼関係を築くことがパピーウォーカーの大切な役割です。しかし、その期間は生後2か月から1歳になるまでのわずか10ヶ月ほど。その後は、盲導犬協会の訓練施設に送り出さなければならないのです。

(児玉 美智子さん)
「利口になってきた時に、わかるようになってきたね、の時に出ていく。預かる10か月間が一番かわいいとき」

児玉さんはティファニーの前にも9頭ものパピーを育てあげたベテランパピーウォーカー。その始まりは30年前。

「きっかけは犬を育てたかったんですよ。ただ育てるだけじゃなくて、子供たちにとっていいきっかけになることはないかな?と思ったときに、ちょうど雑誌を見ていたら、パピーウォーカーの特集をしていた」

子供たちの心の拠り所になってくれればと、パピーを育てることを決めたのです。

現在、国内の視覚障害者で盲導犬のサポートを希望する人はおよそ3000人。しかし実際に活動している盲導犬は836頭と、全然足りていないのです。その理由の一つに高額な盲導犬の育成費があります。一頭当たり500万円必要ですがその9割を寄付で賄っているため、育成頭数を増やすことが難しいのです。さらに、訓練を受けても実際に盲導犬としてデビューできるのはわずか3割~4割ほど。しかし、そんな厳しい道を乗り越えデビューした盲導犬は目の不自由な人にとって生活のサポートはもちろん時には命も守ってくれるかけがえのないパートナーとなるのです。その最も重要なベースを形成するのがパピーウォーカーに育てられる10か月間なのです。

(盲導犬ユーザー)
「人から深い愛情を受けて育ってきた、温かさ、快活さ、明るさがある、すてきな方に育ててもらったと思う」

そんな盲導犬を目指して歩き出したティファニーはというと…。

(児玉 美智子さん)
「乗っちゃったダメダメダメダメ」

かまってほしくて児玉さんの孫の元気くんに飛び乗ってしまいました!

(児玉 美智子さん)
「ティファニーいかんね」

やんちゃなティファニーが元気くんは少し苦手です…。

(児玉 美智子さん)
「ティファニーは子どもが好き」

そんなティファニーも、盲導犬になる基礎を身に着けるため、2か月に1度、しつけ教室に通っています。

(講師)
「ティファニーちゃんは待つことが上手」

やんちゃでおてんばだったティファニーが少しずつ大人に成長していました。わが子のようにおしゃべりをしたり、一緒におでかけをしたり、児玉さんたちがティファニーへ愛情をたっぷりと注ぎ、あっという間に時は過ぎていきました。孫の元気くんも、少しずつ、心許せるように。

(児玉さんの孫・元気くん)
「ティファニー座れ。ティファニー座れ。グッド。お散歩に行くよ」

訓練施設に送り出すまで、残り1週間…。

(児玉 美智子さん)
「絶対覚えてくれるなと思っているから。だから、寂しくはないです」

これまで、9頭のパピーを育てた児玉さん。その子たちが盲導犬になっていくことに”子育て”のような喜びを感じているといいます。

(児玉 美智子さん)
「盲導犬の訓練を受けて盲導犬の自覚、顔つきが変わって成長していく姿を見て、いいなと思った」

この“やりがい”が30年も活動を続けている理由です。そして、3月10日。ついにお別れの日。盲導犬協会にティファニーを引き渡します。

(児玉 美智子さん)
「私には甘えてくるけれど、入学したらしっかりやってくれるかなと期待しています」

この日は他にも、5組の家族からパピーが引き渡されました。ティファニーも何かを感じているのか、落ち着かない様子。そして…。児玉さんとティファニーを10か月間つないでいたリードを、盲導犬の訓練士へ託します。

(児玉 美智子さん)
「やっぱりね、と思いました。ティファニーがあんなに小躍りしていって、若いお姉さんに連れられてニコニコしていきましたよね。だから心配していません」

ティファニーはこれから盲導犬になるため、約1年間の厳しい訓練に臨みます。

(児玉 美智子さん)
「犬は、私のところから盲導犬に育てられて、ユーザーさんのために動いて、お役目が終われば違うボランティアさんに引き取られて、いろいろな人にその場その場で愛される。こんなに愛される犬を育てるってすごくない?楽しくない?って皆さんに伝えたいと思っています」

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