【物流2024問題その後】トラックドライバー時間外労働規制施行から1年で現場は?津川祥吾アンカーが取材(静岡)
トラックドライバーへの時間外労働の規制で荷物が届かなくなることや輸送コストの高騰が懸念された「物流の2024年問題」。施行から1年がたち、輸送現場に変化はあったのでしょうか。津川祥吾アンカーが取材してきました。
“荷物が届かなくなるかも…”“輸送費が高騰するかも…”。そんな不安が叫ばれる中、2024年4月から始まったトラックドライバーへの時間外労働の規制。心配されていた問題はどうだったのでしょうか。
2025年1月、静岡市内で行われた「2024年問題対策セミナー」。会場には約100人の物流関係者の姿が。この1年間の2024年問題に対する行政の取り組みや効率化の事例が紹介され、意見交換が行われました。
何も対策をしないと2024年の段階で14.2%、2030年には34.1%の輸送能力が不足するといわれていましたが、国土交通省のまとめでは、2023年度の同時期と変わらない輸送量を維持しています。一方で、帝国データバンクの調べでは、運送会社の倒産件数はリーマンショック時に迫る360件ペースとなっています。果たして、2024年問題の現状は?
セミナーにも参加していた、静岡県内で運送会社を経営する渡邉さんに、津川アンカーが物流業界の今について聞きました。
(津川 祥吾 アンカー)
「御社はどういった運送会社?」
(アトランス 渡邉 次彦 社長)
「浜松市と藤枝市に拠点があり、トラックが53台、社員が57名(パート含め)」「中堅から少し下の規模」
創業約50年の「アトランス」。静岡県内に2つの営業所を持ち、輸送する荷物は家電や住宅設備機器、自動車部品、生活用品など多岐にわたりますが、基本的に工場から倉庫へなど企業間の輸送です。
(津川 祥吾 アンカー)
「2024年問題といわれて1年ですが、どうでしたか?」
(アトランス 渡邉 次彦 社長)
「簡単には言えないが、経営者として考えるとよかった。人材確保で考えると全産業から確保しなければいけない。運送会社から残業時間が長いと入ってくる人がいるかといったら考えにくい」
「時間外労働の規制は良かった」と評価する渡邉社長。心配されていた輸送力不足については…。
(津川 祥吾 アンカー)
「2024年問題、運送業界が厳しくなり荷物が届かなくなるといわれていたが?」
(アトランス 渡邉 次彦 社長)
「何もやらなければ届かなくなる」「この1年間、荷主・運送業者も相当な努力をした」
業界全体で効率化などに取り組んだため、労働時間は減っても、なんとか輸送量を維持できているといいます。そのために、この会社が行ったのが「取引先の選択」です。
(アトランス 渡邉 次彦 社長)
「運送会社は受け身。改善のポイントは荷主にある」「ここ2年で状況を説明し、運賃改定をしているお客さんはいる。お願いをしても無理だというお客さまもいるので、一定期間をおいて撤退している」
労働時間が規制される中、無駄な待機時間の削減や適正な運賃の支払いに応じてくれなかった荷主との取引はやめたといいます。その数は約4割にもなります。この「荷主の理解や協力」で、本社では前年を上回る業績を達成。しかし、その一方で…。
(アトランス 渡邉 次彦 社長)
「本社は前年比120%、藤枝営業所は85%売り上げを落としている」
同じ会社の中でも業績に差が出ているのです。そこには、どのような違いがあるのでしょうか。
(アトランス 渡邉 次彦 社長)
「一つは規模。社員が10名しかいない。できることが少ない。荷主との運賃交渉ができず値上げをしてもらえないことが多く、撤退し、社員も不安に思って退職しまう悪循環」「どんなお客さんと付き合うかということも大切」
トラックやドライバーの数が多い本社では、効率よく輸送することができ、業績を伸ばすことが出来ましたが、規模が小さいところでは効率化も限界があり、運賃交渉も厳しいのが現状なのです。
(トランス 渡邉 次彦 社長)
「運送会社の経営者たちは覚悟をもってやっていかなければいけない。非常に厳しい時代、何もやっていなければ淘汰されてしまう」
ところで、輸送力の維持に不可欠な「荷主の協力」現場では、この1年でどんな変化があるのでしょうか。
続いて訪れたのは、東名高速・浜松インターにほど近い「ヤマト運輸」の浜松ベース。早速、中へ入ってみると…。
(津川 祥吾 アンカー)
「広いですね。荷物がたくさんありますね」
5000坪あるここは24時間稼働していて、1日13万個もの荷物をさばいています。出入りするトラックは1日100台にも。運送会社のイメージが強い「ヤマト運輸」ですが、自社で運びきれない荷物は他の運送会社に依頼するため、荷主という側面もあります。
(津川 祥吾 アンカー)
「荷主という立場で、2024年問題どう取り組んだ?」
(ヤマト運輸 深澤 浩さん)
「ドライバーの働き方が大きく変わった」「物流拠点間の運行ルートの集約や、かご台車の最適な積載で、輸送キャパシティの最大化に取り組んでいる」
そこへ、配送を終え新たな荷物を積みこむため1台のトラックがやってきました。
(津川 祥吾 アンカー)
「お疲れ様でした」
(ドライバー)
「このあとは休憩に入ります」「1時間ぐらい」
この1年でドライバーの働き方は変わったのでしょうか。
(ドライバー)
「作業的な分担が明確になった」「ボックスを引っ張り、所定の場所に持ってくることもなくなった」「休憩がとれるようになった」
今までは、仕分けされボックスに入った荷物を探し、トラックのところに持ってくる作業もドライバーが行っていたそうですが、輸送以外の作業はヤマト側がやるようになったといいます。
(ドライバー )
「拘束時間が減りました」「拘束時間が減ったことで給料が減ると世間でいわれているが、そうはなっていない」
「ヤマト運輸」では、今まで曖昧になっていた輸送と作業を厳格に分けたうえで、紙で行っていた管理をデジタル化。ドライバーに作業が発生した場合は、運賃に上乗せされるようになったというのです。ドライバーが「働きやすい環境」と「適正な運賃の支払い」。物流を止めないためにも業界全体の協力が不可欠です
(ヤマト運輸 深澤 浩さん)
「物流業界としては働き方や商習慣では課題がたくさんある」「消費者に安く荷物が届くことは大事なこと。荷主とパートナー間で適正な運賃が引かれることも大切」「なによりパートナーが働きやすい環境整備を行う責務があると感じている」