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vol.29 ベトナムと日本の架け橋に…の巻

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LE THI HONG VINH(レイ ティ ホン ヴィン)さん
株式会社サイゴンニーズ代表

ベトナム・ホーチミン市生まれ。
1998年に来日。
日本語学校を経て静岡県立大学に進学。
2006年8月静岡市内にベトナム料理店「AnNam(アンナン」を開店。
レストラン経営のかたわら、年に一度、故郷ホーチミンの大学で講師として日本語コミュニケーション論を教える教育者としての顔も持つ。
静岡市内で夫と二人暮らし。

箱入り娘、日本へ!

━━━すごく日本語がお上手で驚いたんですが、まずは来日のきっかけからお聞かせください。

1998年10月に、留学生として来日しました。
ベトナムで半年通っていた日本語学校が、静岡市内にある日本語学校と姉妹校だった縁で静岡へ来ることになったんです。ホントは東京に行きたかったんですが、「東京は女の子が1人で暮らすには危険な街だから、危ない」って反対されたんですよ(笑)。
静岡って気候もいいし、人もすごく良いので、住むほどに愛着がわきました。
日本語学校の先生からは「他の土地に行かない?」って言われたのですが、「静岡が良い!」って静岡県立大学に進学しました。
実は、ベトナムにいた頃は、家から出て暮らしたことはなかったんです。箱に入れられていたというか……。

━━━日本語で言うと“箱入り娘”ですね?

そうですね(笑)。
旅に出るのは好きだけど、“住む”ということになるとなじんだ場所を出る勇気がなかなかもてない。今はもっと強くなっている気がするし(笑)、一度住んでしまえば平気なんですけどね。

━━━そういうところ、静岡県人の気質にも似ている気がします(笑)。静岡の人や風土との相性もよかったのかもしれませんね。でも、そもそも何故、日本語を習おうと思ったんですか?

父親がエンジニアだったんです。水力発電所の建築などに関わっている仕事だったので、小さい頃、日本の方が家に来ていたりしていたんです。その頃は日本語もできないから、コミュニケーションもとれなかったんですが、いつか日本語を学んでみたいなとは思っていました。
ベトナムの大学では法律を学んでいたんですが、自分には合わないと感じていたんです。
きっかけになったことは忘れてしまいましたが、あるとき、日本にすごく興味を持ちました。
話す日本語もとても流暢だが、漢字もひらがなもカタカナも自在に使用しているのが驚き。
メールやブログに書いていらっしゃる文章も、日本人以上にお上手かも!?
すごく不思議な国に見えて……よく知ったら面白いものがいっぱいありそうで、いつか行ってみたいなって思ったんです。それで大学では第2外国語として日本語を選択しました。
日本語は難しかったです。表記も文法も、意味も複雑でした。でも難しいからこそ面白かったですね。
それに日本はベトナムと同じアジアだけど、謎っぽい。文化的に特色がありますよね。
アジアでは一番の先進国ですけど、歴史とか伝統とかちゃんと守っているように見えました。中に入ってみるとそうでもない部分もあると思うんですが(笑)、それでも守られているものが多い気がします。

━━━伝統文化や生活習慣など、失っていないものがあるという感じですか。

そうですね。それに、なんというか……深さを感じますね。その深さが何かは分かんないんですけど(笑)。


“不思議の国、日本“は第二のふるさと

━━━外から見たときには「不思議な国、日本」。実際に暮らしてみてどうでした?

文化の面でも、やっぱり良いところがいっぱいありますね。
私はたまたま静岡に来て、恵まれた環境だったということもあると思いますが、人柄もすごく良い。ベトナムに比べると人間関係が複雑だけど、そこがまた面白いです。

ただ、働いてみると感じるのが、日本では(会社で)人に求められることがすごく多いですね。
ベトナムだったら、8時間働いたら会社帰りにこどもを迎えに行って、買い物をしながら帰って、家族で食卓を囲むのが当たり前。でも今の日本ではそういうのはなかなか難しいですよね。
そういうところ、日本人はかわいそうだなって思います。個々に余裕がないから、助けを求められない。助け合えないのではないでしょうか。
少子化が日本では問題になっていますが、こどもを産みたいのに産めないという状況がある。
ベトナムでは、結婚したら独立はしますけど、子供が産まれたらおじいちゃん・おばあちゃん・兄弟が力を合わせて助けあうことが多いんです。貧乏でも、こどもが産みたければ産める環境はあります。
私は日本がすごく好きなので、これ以上良いところを失って欲しくないって思っています 。

━━━確かに私たち日本人が経済的な豊かさと引き換えに、失いつつあるものの一つでもありますね。「日本が好きだから失って欲しくない」というレイさんの言葉がしみます。

学生時代、家族と離れて日本に来て、静岡で色んな方に巡り会えて、助けていただいた。本当に大切な第二のふるさとです。

レストラン経営と、大学講師・・・2つの顔

2004年の春に静岡県立大学を卒業して、一旦ベトナムに帰国して大学で日本語教師として働いていました。
大学での講義は、(結婚を機に2006年に再来日した)今でも続けていて、日本語コミュニケーション論という授業を持っています。ベトナムはいま日本語ブームなので、たくさんの若い人が日本語を学んで日系企業で働いているのですが、人間関係がすごく大変。だから日本語コミュニケーションという授業の必要性が高まってきているんです。
日本で色々な体験をしていないと分からないことが、たくさんありますよね。
せっかく日本語を習って就職したのに人間関係がうまくいかないとガッカリしてしまったり、辞めてしまったり、こうだと分かっていたら日本語を選択しなかった……という人が増えているんです。だから、社会に出る前に心の準備と知識を与える場として、大学が日本語コミュニケーションの講義を設けたんですが、長く日本に住んだ経験のあるのは私しかいなかったんですね。
急遽、講義を受け持つことになったので、資料を読んだり理論をまとめたりと、急いで準備をしました。
自分の体験だけに基づいても、思い込みが強いものだったりするでしょうから信頼度が低くなってしまいますので、人の書いたものも読んで、理論の検証をしたりもしました。
今は(お店もあるので)あまり長い時間静岡を離れられないので、1年に一度、ベトナムに帰国したときに、1ケ月間の集中講義という形です。

手際よくフォーを作る調理担当のグェン ティ ホン マイさん。
日本人の私たちにも食べやすいのに、本格的な本場の味を提供してくれる。
苦手な人もいるパクチーなどの香菜は、別添えで出してくれるなど繊細な心配りが嬉しい。

━━━日本で長く暮らしていた経験を持つレイさんにしかできない、すごく意義のあるお仕事ですね。
帰国して教育者として働いていたレイさんが、また日本に戻ってきて、さらにはお店を開くことになったのは、どうしてですか?

学生時代からお付き合いのあった日本の男性と結婚することになって、日本に戻ってきました。せっかく静岡にいますし、今まで、いろいろな方にお世話になって、感謝の気持ちが大きかったので、今回は静岡の方々に、ベトナムのことを知ってほしいなと思って、ベトナム人の友人とお店を出すことを計画したんです。
日本はベトナム料理ブームなのに、本当にベトナム料理らしい料理を出しているお店が、ほとんどないことを学生時代から不満に思っていて、いつか本物のベトナムの味を出すお店をやりたいって思っていました。
パートナーは、日本語学校時代の後輩で、このお店の近くにある鈴木学園で和食を学んでいました。彼女は料理に関してすごくセンスがあります。

━━━お世話になっている静岡に恩返ししたいという気持ちがお店をオープンさせたんですね。
日本に戻ってきたのが、昨年の3月で、お店をオープンしたのが8月ってことは……5ヶ月でお店をオープン!? 私たち日本人がお店を出そうと思っても、結構な体力がいると思うんですけど……。
お店を出すときも多くの方々に支えられました?

お店のスタッフの方々と。ベトナムからの留学生もバイトで働いているそうだ。

それがないと、できなかったですね。今でも応援してくださって、心配してくださっている方々がたくさん。
逆にしっかりしないとガッカリさせてしまうんじゃないかと……プレッシャーもありますね。

━━━先ほどの日本語が難しいからこそ、学ぶのが楽しいって話でも感じましたけど、でも、レイさんはプレッシャーを力にしている感じもしますね。プレッシャーに負けて、逃げちゃう人も多いのに。

そうですね。
だからよく言うのは「人に勝つより、自分に勝つ」。これって1番難しいけど、大切ですね。

━━━う〜ん、おっしゃる通りですね。私なんか逃げてばっかりです(笑)。
でもそういうレイさんだから、周りに人が支えようって思うんじゃないでしょうか。危なっかしいから支えてあげようじゃなくて、レイさんの気持ちが伝わっているんですよ、きっと。

レイさん(左)とグェンさん(右)
お二人は日本語学校時代の先輩後輩の間柄。
共同経営者でもあり友人でもあるお二人の信頼関係は、それぞれのお話からも羨ましいほどに伝わってくる。

多くの方に支えられて開店したお店も、半年以上たちましたがどうですか?

最初にお店をオープンさせようと計画したときは、考えが甘かったですね。
私は料理を作ることも食べることも好きなんですね。だから機会があったらお店をやってみたいとは思っていたけど、やっぱり“教える”という仕事もしたい。だからオープン前は、落ち着いたら自分は経理的なことなどをやって、他の時間では勉強や他の仕事ができると思っていましたが、実際には仕込みや調理の手伝いもしなくてはならなくて、朝から閉店までお店にいるので、全然時間がとれません。他にも次から次へ色んな山が出てきています。


泥中から美しい花を咲かせる蓮の花のように・・・

琥珀色が美しい蓮茶。
飲むと上品で爽やかな香りが口中から鼻腔にかけて広がる。ジャスミン茶や八角のような風味も感じられ、美味しい。

━━━でも、お店をやっていて良かったと思うこともありますか?

それはもちろん、うれしいこともたくさんあります。
お客さんがうちのお店で食事をしてくださって、「ベトナムに行きたくなりました」と言われることもあるんですが、すごく嬉しくなりますね。
ただ食べて満足してくださるだけじゃなくて、そこでベトナムってどういう国かと興味を持ってもらえて、質問をしていただけることがあるのは嬉しい。「このお料理はどういう環境で生まれてきたのか」など深い質問をされることもあります。自分も説明をするために色々調べなければならないんですが、それもまた楽しいです。
例えば、お水の代わりに出しているこの蓮茶なんですが、これも「どうして蓮茶なんですか?」って聞かれたりします。

店内のあちこちに蓮の花の意匠が目に付く。ベトナムの人にとっては、日本人の桜よりももっと生活に密着した存在。

━━━私も初めていただいたときに、飲んだことがない風味だったので「これはなんですか?」って聞きましたもん! で、どうして蓮茶なんですか(笑)?

お店のシンボルマークも蓮なんですが、蓮茶はベトナムではポピュラーなお茶です。咲いた蓮の花の中に紅茶の茶葉を入れて、花を縛って一晩そのまま置いて茶葉に香りを移す方法と、花のめしべを摘んで茶葉に混ぜる方法があります。
ベトナムは、南北に長い国なので地方によって、気候や風土、文化にすごく違いがあるんです。南は気候にも恵まれ食材も豊富でおっとりしているけど、北の方は文化の発祥地としての歴史のある気風が残っています。
風土や気候が違うので、人間の性質も全然違うんですよ。でもこんなに違う国なのに、沼や池があるので、どこでも共通しているのが蓮。ベトナムでは、蓮は生活にも密接に結びついています。めしべはお茶に、花や葉でごはんを包んだり、茎もサラダにしたりして食べますし、根っこはレンコンですからもちろん食べます。
食生活にも結びついていますし、精神的な生活にも大切な存在です。
ベトナムは儒教の影響が強く、貧しくても美しく生きていかなくちゃいけないという考えがあります。
その象徴が蓮なんですね。

━━━泥にまみれていても美しい花を咲かせるってことですね?

そう。ベトナムには民謡にも「泥の中で育っているのに、泥臭くならず、キレイに美しく咲いている」という歌詞があります。これは人間の人格についても歌っているんですね。
これまでベトナムには国花という概念がなかったのですが、制定しようということでアンケートをとったら、蓮がやはり1番でした。

━━━蓮茶ひとつとっても、こうしてベトナムの話を伺えました。

店の理念というか方針は、ただの料理店ではなくて、食を通してベトナムの文化を伝えたいということなんです。今の段階ではまだまだそこまでできていませんが、3月半ばにベトナムから1人料理人が来るんです。そうしたら、私ももっと外に出て勉強をしたり、イベントを企画したり、料理教室も開きたいと考えています。
最初の企画として4月には「春巻きフェア」を計画しているんですよ。ベトナムは先ほど話しましたけど、縦に長い国なので春巻きも各地によって全然違うんです。皮も違うし、中身もタレも違うんです。それを全てではないですが、北から南まで色んな種類をご紹介しようと思っています。

日本でもすっかりおなじみの生春巻。
実は地方によって様々な種類があるのだそう。

━━━わぁ、楽しそうだし、美味しそう! お店のオープンから半年ですが、夢や企画が色々出てきますね。

私も共同経営者も、未熟で経験がなかった。実際お店をやってみて、修正しないといけない部分がいろいろ見えてきました。
でも未熟だったから、経験がなかったら、こんなに大胆なことをやっちゃったって部分がありますね(笑)。
もし、もう少し経験があったら、「まだまだ未熟だ」って思ってやれなかったと思いますね(笑)。

━━━そういうところは、箱入り娘で実家を出たことがなかったのに、初めて親元を離れたのがいきなり日本という大胆さに通じていますね(笑)。にこやかな笑顔で優しい雰囲気なのに、芯の強さのようなものを感じます。
さっきの蓮の花のたとえじゃないですけど、表面の美しさに隠れた生命力の強さのような。ベトナムの女性はみんなそうなんですか?

ベトナムの女性って強いって言われているんですよ。
儒教の影響もあって、建前では夫唱婦随、男性を立てるんですが昔から女性も働いていましたし。産業が発達しない風土なので、女性も働かないと家族を支えられなかったということもあると思いますが。

━━━新しい料理人の方も増えれば人を使う大変さも増えますし、採算という点からもお店を見直したりと、まだまだ山はありそうですが……。

なんとかして乗り越えるしかないですね。
つまずいて倒れちゃったら終わりですから・・・前に進むしかないんです。もう後ろに何もない状態にして(笑)。


取材を終えて
 レイさんは、ふわっとした笑顔が印象的な女性。でもそのたおやかな笑顔の裏側に聡明さと、芯の強さを感じました。クリエイトな面も持ちながら、法律を学んでいたせいか理論立てて物事を考えることもできるバランス感覚が素晴らしい。
留学生として来日した1人のベトナム人女性、大学で教鞭をとる教育者、そして女性企業家、さらには国際結婚をしている女性……いくつもの顔を持つレイさん。もっともっとお話を伺いたくて話は尽きませんでした。ぜひみなさんもお店に足を運んでみてください。春巻フェアも、そして今後のご活躍も楽しみです。でもどうぞ無理をし過ぎずに……これからも応援しています!
Information

ベトナム料理 AnNam(アンナン)

静岡市葵区伝馬町17-9
TEL:054-250-2266
営業時間:11:30-14:30 / 17:00-22:00 (L.O 21:30)
定休日:月曜日
http://www16.ocn.ne.jp/~annam/

ランチセット(鶏のフォー)900円
2種類の春巻付きでボリューム満点!

◆◇お知らせ◇◆

Harumaki fair(春巻フェア)
4月15日・22日(日)11:30〜14:00
会費:¥2,800(税込み)
限定30名様の予約制
予約の締め切り:4月12日(木)
(※15日は既に満席です。)

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この情報は静岡第一テレビ情報サイト " IMADOKI " 2007年3月現在のものです。

 

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